眠りを制するものはシゴトを制する。
クリエイティブ業に携わっていると、「こう言っても過言ではない」という答えに行き当たる状況の方も多いように感じます。
もちろん僕も睡眠は課題ですが、デザイナー、エンジニア、コーダー、ディレクター、管理職の方。同じ悩みの方に向けてメモを残します。
睡眠を適切に取ることのメリット
まず、睡眠がうまく取れないことというのは、脳がうまく機能していないこと。「『覚醒レベル』が低い」と表現します。
この覚醒レベルが低くないと解決できること、睡眠を取ることでおこる出来事などを睡眠を取るメリットとしてあげていきます。
※詳しく調べれば科学的な話になりますが、要約して解釈のしやすいように表現します。
学んだことを定着させる
記憶の仕組みには「2段階モデル」というものがあります。
記憶を司る脳の場所は「海馬」(覚えやすく忘れやすい)と「大脳」(覚えにくく忘れにくい)にあります。
目覚めている間に体験したものはまず海馬に転送され、やがて大脳へ転送される。これが2段階モデルの構造です。
この海馬→大脳の転送が、睡眠中に行われます。睡眠中は脳にとって余計な刺激に邪魔されない貴重な時間です。この隙に、不要な情報を伝達する神経を消去して、脳の空き容量も確保します。
「ひらめき」をうむ
前項も関連しますが、「ひらめき」とは、一見関係ない知識が結びついて答えを導き出す現象です。必要な情報だけに精査された状態の脳で、ひらめきが起こりやすいと言えます。
このように睡眠中の情報処理で、前日の記憶が、「使えるもの」へと変化していきます。
イライラしづらくなる
睡眠が足りてない毎日の中の人との会話で、無駄にピリピリしてしまう時がありませんか。
これは、脳の中で不快な感情を司る「扁桃体」という部位が、睡眠が不足して過剰に働いているためです。
さらに扁桃体の後ろには海馬があり、海馬は扁桃体の動きを記憶します。それによって、似た場面で不快な反応を示してしまう連鎖が起こります。
睡眠を十分に取ることで、脳の動きが正常になり、些細なことでカチンときづらくなります。
整理整頓がしやすくなる
仕事や部屋の片付けもそうですが、これらは「複数の情報を処理している状態」と言い換えられます。
脳の中でその役割をするのが「前頭葉」です。
睡眠が不足すると、前頭葉の動きが低下します。すると、情報の取捨選択や、処理、判断がうまく行かず、後回しなどをしてやりすごすしかなくなります。
睡眠を十分に取ることで脳の覚醒レベルが高まっていれば、仕事などがうまくいき、残業が減り、また睡眠のための時間が確保できるということになります。
注意力が増す
「あれ、何しにここに来たんだっけ?」
これは物忘れと表現できますが、注意力の機能の問題でもあります。脳の覚醒レベルが低い危険信号です。
そもそも、この注意の機能というのは、脳幹にある「青斑核」という場所から分泌される「ノルアドレナリン」と関係しています。
このノルアドレナリンが少ないと覚醒レベルが低く、多ければ高いということになります。
しかしこのノルアドレナリン、少なくてもパフォーマンスが落ちますが、分泌されすぎていてもパフォーマンスはあがりません。
脳は睡眠が不足していて覚醒レベルが低くなりますが、それにより気分は興奮状態にふれることもあります。
興奮状態にあることで、注意力はあがらない、ということです。
睡眠を取る、つまりは覚醒レベルを一定の水準で保つことで、注意力も保てると考えることが出来ます。
睡眠に意外と悪影響「ながら行動」
先程の項の最後の項目の「注意力」の話に、「興奮状態」という言葉が出てきました。
この興奮状態というのが厄介で、日常の「ながら行動」で脳は勝手に興奮状態に陥ります。
- テレビを見ながら音楽を聞いて、書類をつくる…
- デザインをしながらYoutubeを見て、セリフを聞く…
- Skypeをしながらコーディングを修正する…
- オンライン学習で声を聞きながらコードを書く…
様々なものに注意を向けている状態が継続していると言えます。
これで脳は必要以上にパワーを使い、興奮状態に陥っているのです。
しかも脳は興奮状態に対して順化します。ながら活動が習慣化していると、興奮していることに気づかなくなるのです。
例えば、ながら活動をしている人がそれをやめてシンプルに物事をこなすようになったとしましょう。
きっと物寂しくて集中できないことでしょう。また、すぐに眠気に襲われる可能性があります。
それは脳が興奮状態から急に覚め、本来出るはずの眠気が出てくるからです。
普段、どこでも5分ぐらいで寝れるという方は、脳を興奮させすぎている可能性があります。
日頃から脳を休ませてあげることが大事です。シンプルに物事を行うように意識すると良いでしょう。
睡眠を考える前に。「3つのリズム」
まず、日常で意識しやすい3つのリズムを基準に話を説明します。
- メラトニンリズム
- 睡眠−覚醒リズム
- 深部体温リズム
メラトニンリズム
「メラトニン」とは、陽の光や証明と強く関係する物質です。夜間に暗くなると増加し、眠気を誘発したりします。反対に、光を感知すると減少します。不明な点も多い物質だそうです。
睡眠−覚醒リズム
「大脳」(眠る脳)と「脳幹」(眠らせる脳)が持つ、脳の動きを維持するシステムです。
脳幹・大脳
「脳幹」は、睡眠を発動させる神経がネットワークをつくる場所のことを指します。この場所の、眠らせる神経が動くと、判断や優先順位を決めるなど高いレベルをしている「大脳」が眠ります。
一日のうち、この大脳を眠らせるシステムが強く働く時間帯は、
- 起床から8時間後
- 起床から22時間後
の2回あります。
深部体温リズム
身体の内部の温度が変化するリズム。この深部体温リズムは食事や運動によって高まりますが、食事を減らしたり絶対安静にしてもリズムが無くならないことから、独自のリズムを刻んでいることがわかります。
深部体温は、
- 起床から11時間後に最も高く(A)
- 起床から22時間後に最も低く
なります。
リズムに左右される、人の体内時計
人の体内時計は、24時間より長く設定されています。
朝の光を感知しないとそのまま時間を刻み、数十分から1時間ほど後ろにズレていきます。
実際に、光の当たらない場所で生活した場合、その人の一日の始まりは1時間程度遅くなっていきます。
「睡眠−覚醒リズム」は簡単にずれてしまう弱いリズムです。朝の光を感知しないことで、ズレてしまいます。
一方、「深部体温リズム」はなかなかズレません。
つまりどういうことか?
朝、光を浴びないことで、睡眠−覚醒リズムと、深部体温リズムによる体温のバランスが乱れます。それにより朝が起きれなくなります。
朝、光を浴びるということは、その時点からメラトニンリズムが働き、1日のスタートを設定する重要な行為になります。
睡眠のリズムをコントロールするには
前項の「3つのリズム」を考慮して(いろいろとここに書いてないことも)簡潔にまとめると、
- 起床から4時間以内に光を見る(メラトニンリズムのコントロール)
- 起床から6時間後に目を閉じる(睡眠−覚醒リズムのコントロール)
- 起床から11時間後に姿勢をよくする(深部体温リズムのコントロール)
この3つの項目にまとめることが出来ます。順に説明します。
メラトニンリズムのコントロール
朝の光を浴びることが重要、とお伝えしました。
光の強さの単位で表すと、晴れた日の屋外は10000ルクス以上とされています。
一方、一般的なオフィスの照明は500ルクスほどになるように設計されているそうです。これは曇りの日の窓際の5000ルクス以下です。
500ルクスというのは、知的作業をはかどらせるという意図があるそうです。しかし、リズムを整える意味では恐ろしく暗いのです。
人の一日の始まりから終わりを管理する「位相」と、細胞を司る「マスタークロック」
「位相」(いそう)には様々な器官がありますが、それらを司る、通称「マスタークロック」と呼ばれる器官があります。
体内時計は光を感知してスタートしますが、日没により周囲が暗くなるとマスタークロックが司令を出しメラトニンを分泌させます(眠くなる)。その最中も体内時計は進みますが、睡眠などを経て日が昇り、マスタークロックが朝の光を感知するとメラトニンの分泌を抑える司令を出します(眠気がさめだす)。
更に、身体の細胞はそれぞれに時計を持っています。この時計が狂うと、例えば夜中に無性にお腹が減ったりします。マスタークロックは細胞が正しい動きをするようにそれらを統括する役割も担っています。
マスタークロックを機能させる501ルクス
朝の光を感知する…としきりにお伝えしましたが、説明にもあった、オフィスの照明の500ルクスではいけないのでしょうか?
実は、マスタークロックがメラトニンの分泌をする司令を出すのが500ルクス程度だそうです。
なので、オフィスで徹夜して目覚めて仕事…これでは負の連鎖なのも納得ですよね。
マスタークロックの稼働時間に朝の光を浴びる
最初にお伝えした「位相」をコントロールするマスタークロック。位相を調整できる時間が、起床後4時間までなのです。なので、朝起きて4時間以内に十分な光を浴びましょう。
朝起きて窓際でボーっとする、歯を磨く、朝ごはんを食べる。その程度でもいいです。
メラトニンがどのようにできるか
「メラトニン」の原料は、「トリプトファン」という必須アミノ酸です。肉や魚、豆類、乳製品、納豆などに含まれますが、これが「セロトニン」に変換されます。
セロトニンは、脳の興奮を抑え、突発的な出来事に驚かないようにし、気分を安定させる作用があります。このセロトニンは、メラトニンが分泌されているときは少なく、その逆のときは同じように逆になります。日中のパフォーマンスを気遣うなら、朝は納豆や魚、豆腐、牛乳を摂取するといいでしょう。
しかし原料のトリプトファンはそのままでは脳に取り込まれず、「インスリン」という物質が切り離して初めて脳に取り込まれます。が、睡眠が不足するとこのインスリンが減ります。健康的に朝食をとっていても睡眠が不足していると意味がなくなるわけです。
メラトニンは、起きている間に減らせば減らすほど、暗くなったときにはたくさん分泌されます。
つまり、朝のメラトニンリズムのコントロールを行うこと=朝の光を浴びることの積み重ねが、これからの睡眠や、その日の全ての行動に影響するキーとなるわけです。
ちなみに慢性的に朝が弱いという方は、位相がずれていることになります。1時間修正するのには1日かかるので、毎日少しづつ早く起きて、ちゃんと朝の光を浴びましょう。
睡眠−覚醒リズムのコントロール
昼間の眠気、よくあることですよね。実はこれには「睡眠−覚醒リズムのコントロール」が影響しています。
睡眠−覚醒リズムには、脳の働きを保つために、一日に2回(起床後8・22時間後)、大脳を眠らせるシステムが働きます。
なので朝7時起床の場合は15時頃。その日が徹夜なら4時頃に強烈な眠気がくる、というのが計算上のリズムです。
「睡眠負債」とは。溜まるとどうなるか。
僕たちの脳には、起きているだけで「睡眠物質」が蓄積されます。これが溜まることを「睡眠負債」といいます。つまりは脳の借金です。これが溜まれば溜まるほど、脳の働きが低下します。
実際にどうなっているのでしょうか?
睡眠負債が溜まった状態だと、脳の「頭頂葉」(見たもの、聞いたこと、触った感じなど事実に基づいた情報を処理する部)の働きが低下し、それを補うために、「前頭葉」(過去の経験に基づいて考える部位)が働き、補います。つまり、リアルタイムな判断が鈍り、経験則で判断してしまいがちになり、ヒューマンエラーが起こる可能性が高くなります。また、やる気の低下もおこります。
「睡眠−覚醒リズム」にあわせ、仮眠をとってリラックスする
「睡眠−覚醒リズム」は起床後8時間と22時間後に大脳を眠らせます。
日中の勤務中に迎える波である起床後8時間の少しまえ、起床から6時間後に15分ほど目を閉じてリラックスします。目を閉じることで「アルファ派」が出てリラックスできます。また、10分〜15分程度目を閉じることで、睡眠負債を減らすことができます。難しい場合は、5分でも目を閉じることでα波が出ますが、睡眠負債は減りません。
目を閉じる前に「○分後に目を覚ます」と頭の中で唱えます。これは「自己覚醒法」といい、身体にその情報がインプットされます。これは練習でうまくいくようになるそうです。
深部体温リズムのコントロール
「深部体温」は、身体の表面の体温とは異なり、直腸で計ることから「直腸体温」と呼ばれたりすることもあります。
深部体温のリズムは、起床後11時間後に最も高くなり、起床後22時間後に最も低くなります。
深部体温が高ければ身体がよく動きますし、低ければ眠くなります。スポーツの新記録も15時〜20時に出されていることが多いということからも、深部体温のリズムの重要性が伺えます。
深部体温リズムはズレにくい強いリズムだとお伝えしました。一晩の徹夜ではズレません。(2〜3週間の夜更かしでは徐々に後ろにズレる)しかし、ズレたリズムをもとに戻すのも困難です。
深部体温リズムがズレるとどうなるか
極端な例ですが、毎日朝7時おきの生活だったとして、体温が最も高くなる起床後11時間後は18時。最も低くなるのは午前5時。
不規則な生活を続けることで、本来の設定時刻18時から後ろにズレていきます。これが23時までズレたとすると、眠りにつく時間に体温が最も高くなることになります。すると、消灯時間とピークがかぶってしまい、眠りにくい状態になるのです。
さらに、同時に最も体温が低くなる時間もズレます。起床時間である午前7時に体温が最も低くなっていると、寝起きが非常に悪い状態です。
深部体温リズムのズレで寝起きが悪い / 寝付きが悪い を抑えるには
体温をあげる時間だけは一定にしておくことで、影響を抑えることができると考えられています。体温を上げるには、筋肉をつかいます。
筋肉を使う、というとハードなトレーニングをするイメージになりますが、そうではありません。背中の筋肉を簡単に使うだけでいいのです。
起床後から11時間後に5分ほど、椅子に座ってビシッと背筋を伸ばします。そのときに
- 肩甲骨の位置を正す
(両肩を耳につけるほど高く上げてから、後ろに引ききったところで肩を下ろす) - 肛門を締める
この2点を意識してください。
胸を突き出していたり、腰を反っていたら、それは背中の筋肉をうまく使えてない状態です。
背中の筋肉を触って固くなっていればOKです。そのまま呼吸を止めずに5秒数え、すっと力を抜いてください。これを5分間、姿勢を良く保って繰り返してください。
起床11時間後のチャンスを逃したら、寝る前の○○
前項では体温が上がるタイミングを一定にしておくと悪影響を抑えることができる、とお伝えしました。ではそれを逃したらどうすればいいのでしょうか?
体温は、上がったぶんだけ、急な勾配で下ります。就寝時に体温を下げて眠りを良くするために、ここは半ば強引に挙げる措置をとります。タイミングは、就寝1時間前です。
ぬるめのお風呂に入る(シャワーの方は足首を温める意識で)か、ストレッチ、軽めの運動をします。運動をする方は、激しくなってしまうと脳が覚醒してしまうので別の影響で睡眠に悪影響がうまれてしまいます。あくまで軽めに。
眠りはじめの体温が下がり、よく眠れることのメリット
- 睡眠が肌の再生に効果的である
- 「成長ホルモン」が増え、糖分・脂肪・タンパク代謝に作用する
- 血糖値が下がる
など様々なメリットをうけることができます。
この中の成長ホルモンは、限られた時間のみしか分泌されないのではなく、眠りはじめの3時間に分泌されます。分泌量は眠りの深さによって決まり、眠りの深さは深部体温によって決まります。眠りはじめの深部体温が低ければ眠りは深くなり、成長ホルモンも多くなるということです。
睡眠の質を改善するための3ポイントを解説しました。意外と簡単にできることですね!
- 起床から4時間以内に、窓際で光を浴びるか、光を見る
- 起床から6時間後に15分ほど目を閉じる
- 起床から11時間後に、肩甲骨の位置を正し、肛門を締め姿勢をピッとよくする
(もしくは就寝1時間前のお風呂、ストレッチ軽めの運動
明日のベストパフォーマンスをつくっていくために、クリエイターの皆様は是非とも参考にしてみてください。
(おまけ)意外と結果的に目覚めにつながらない、コーヒー
ここまで読んでいただいた上で、「朝や仕事の途中にコーヒーを飲む習慣があるから、より良いのでは?」と感じる方がいらっしゃると思います。
僕たちの脳には日々生活するだけで「睡眠物質」がたまります。コーヒーのカフェインは、要するに、睡眠物質が溜まった状態で脳が休まらなくするという理屈なので、コーヒーを飲むこと自体が改善にはつながらないのです。
それどころか、そのまま脳を可動させ続けることでリズムのズレにつながることですので、くれぐれも役割を理解していただいた上で楽しむほうがよいでしょう。
最後に
ここまで長らく読んでいただき、ありがとうございます。
実はこの記事は下記の書籍から抜粋しています。
さらに詳しく体系的に知りたい場合、ぜひ手にとって読んでみてください。非常に読みやすい文字のサイズ、行間で、スイスイと読み進められます。
でわ!